大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成8年(行ケ)215号 判決

群馬県桐生市境野町6丁目460番地

原告

株式会社三共

代表者代表取締役

毒島秀行

訴訟代理人弁理士

深見久郎

森田俊雄

塚本豊

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

大中雅人

八巻惺

吉村宅衛

吉野日出夫

主文

1  特許庁が平成7年審判第14766号事件について平成8年7月26日にした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告

主文と同旨の判決

2  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成5年2月17日、名称を「弾球遊技機」とする発明について、昭和61年2月17日にした特許出願(昭和61年特許願第33621号。以下、「原出願」という。)の一部を新たな特許出願(平成5年特許願第28280号。以下、この分割出願を「本出願」といい、本出願に係る発明を「本願発明」という。)としたが、平成7年6月8日に拒絶査定がなされたので、同年7月10日に査定不服の審判を請求し、平成7年審判第14766号事件として審理された結果、平成8年7月26日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年8月31日原告に送達された。

2  本願発明の要旨(別紙図面A参照)

遊技者の打球操作に従って打玉を遊技領域に打込んで遊技が行なわれる弾球遊技機であって、

打玉を間欠的に打球発射可能な打球機構と、

該打球機構を駆動するための電気的駆動手段と、

前記打球機構による打玉の打球発射間隔を制御するための打球間隔制御回路と、

遊技者が触れることが可能な触手部と、

該触手部に遊技者が触れていることを検出して前記電気的駆動手段を駆動可能状態にする触手検出回路とを含み、

前記打球間隔制御回路および前記触手検出回路が同一の回路基板に設けられていることを特徴とする、弾球遊技機

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は、その特許請求の範囲に記載された前項のとおりと認める。

(2)  これに対して、審判手続において、平成8年2月14日付けで、概ね次のような拒絶理由を通知した。

「本願発明は、その出願前に国内において頒布された昭和62年特許出願公開第192187号公報(以下、「原明細書」という。別紙図面B参照)に記載された発明に基づいて、当業者が、容易に発明をすることができたものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

原出願の発明(原明細書の特許請求の範囲に記載された発明。以下、「原明細書記載の発明」という。)は、その明細書及び図面の記載からみて、『打球間隔制御手段及び触手検出手段を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた』ことを必須構成要件とするものであり、本願発明は、かかる構成を有していない。それゆえ、本出願は、適法な分割出願とは認められないので、出願日の遡及は認めることができない。」

(3)  これに対する原告の主張は、要するに、「本願発明の特許請求の範囲に限定された各構成要件のすべてが、原明細書に開示されている。そして、原明細書の5頁右下欄14行ないし19行の開示内容は、『打球間隔制御回路基板104には、タッチ検出回路が打球間隔制御回路106と共に備えられてもよい』という記載であり、表現がきわめて明瞭であり意味が一義的にしか解釈できず、『打球間隔制御回路及び触手検出回路が同一の回路基板に設けられている』という意味にしか理解できない。それ故、本出願は適法な分割出願であり、出願日の遡及が認められ、その結果、原明細書は本出願の公知例にはならない。」というにある。

(4)  しかしながら、原明細書の5頁右下欄14行ないし19行の記載は、同欄7行ないし13行の「打球間隔制御回路基板104はケーシング内で安定して保持されるように、」という記載に続くものであり、打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成と解されるから、原明細書記載の発明は、「打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた」ことを必須構成要件とするものである。したがって、この構成要件を有していない本願発明の特許出願は適法な分割出願と認められず、特許出願日の遡及を認めることはできないから、本願発明は、分割出願した旨の表示がなされた平成5年2月17日に特許出願されたものと認める。

そこで、本願発明と原明細書記載の発明とを対比すると、原明細書記載の発明が、打球間隔制御回路及び触手検出回路の改造、改変等が困難なように、これらを設けた回路基板を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた点、すなわち、該回路基板を電気的駆動手段を収納するケーシングの内部に設けているか否かの点において、両者は相違する。

しかしながら、原明細書記載の発明は、打球間隔を遊技場において簡単に改造、改変できないようにすることを目的とするものであるところ、本願発明は、打球間隔制御回路と触手検出回路の弾球遊技機への組付作業の煩雑化を防止することを目的とするものであり、本願発明が、不正な改造、改変を行うことが困難になるという効果も併せ奏されることを考慮すると、原明細書記載の発明において、組付作業をより簡単にすべく、該回路基板を、ケーシングの内部に設けることに代えて、ケーシングの内部に設けないようにすることは、当業者が容易に考えることができた程度のことといえる。

そして、本願発明の作用効果についてみても、原明細書記載の発明から当然に予測し得た程度のものと認められる。

(5)  したがって、本願発明は、原明細書記載の発明から当業者が容易に発明をすることができたといえるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決は、本出願は適法な分割出願とは認められず、したがって出願日の遡及が認められないことを前提として、原明細書の記載を論拠として本願発明の進歩性を否定している。

しかしながら、本出願の分割出願としての適法性に関する審決の判断は誤りであり、この誤りが本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、審決は違法なものとして取り消されるべきである。

(1)  審決が本出願の分割出願としての適法性を否定した理由は、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成と解される」から、「原明細書記載の発明は、『打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた』ことを必須構成要件とするものである」ところ、本願発明がそのような構成要件を有していない点にある。

原明細書記載の発明が「打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた」ことを必須構成要件とすることは認めるが、そうであるからといって、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成」というのは誤りである。

この点に関する原明細書の記載は、次のようなものである。

a 「打球間隔制御回路基板104には、タッチ板28(中略)に遊技者の手が触れているか否かによりモータ本体82を動作可能状態にするか否かを判別するタッチ検出回路(中略)が、打球間隔制御回路106と共に備えられていてもよい。」(5頁右下欄14行ないし19行)

b 「制御回路を、インダクションモータ145のケーシング内に収納し、外部から容易に制御回路の構成を変更等できないようにすれば、制御回路に対し容易に不正を加えることが防止できる。」(7頁右下欄9行ないし12行)

c 「タッチ検出回路160を、打球間隔制御回路とともに、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に収めるようにすれば、タッチ検出回路160に対して容易に不正を加えることが困難になり、不正防止が図れる。」(9頁右上欄19行ないし左下欄3行)。

上記のb及びcの各記載が、打球間隔制御回路と触手検出回路を同一の回路基板に設けることと、その回路基板をケーシング内部に設けることとが「一体不可分の構成」であるという趣旨ではなく、仮に(打球間隔制御回路と触手検出回路とを設けた)回路基板をケーシング内部に設ける構成を採用するならば、不正防止の効果が得られるという趣旨であることは明らかである(逆にいえば、その回路基板をケーシング内部に設けない構成にするならば不正防止の効果が得られないことが、自明な事項として開示されているといえる。)。そして、原明細書には、打球間隔制御回路と触手検出回路とを同一の基板に設けることと、その回路基板をケーシング内に設けることが「不可分一体の構成」であることを示す記載ないし示唆は全く存しないのである。

したがって、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成」であるとした審決の判断は根拠がなく、明らかに誤りである。

(2)  化学のような実験科学の分野の発明においては、発明の構成要件の可分・不可分は実験に基づいてのみ確認される。これに対し、電気・機械の分野の発明においては、発明の構成要件の可分・不可分は当業者において予測可能なことが多く、特定の発明の構成要件の一部によって別の発明が成立することを確認できる場合が少なくない。

これを本件についていえば、当業者であれば、原明細書には、原明細書に記載されている「打球間隔制御回路と触手検出回路とを同一の回路基板に設け、その回路基板をケーシング内部に設ける」構成から、「回路基板をケーシング内部に設ける」ことを外した、「打球間隔制御回路と触手検出回路とを同一の回路基板に設け」る構成が含まれていることは自明に理解することができる(原明細書には、原発明の構成から「回路基板をケーシング内部に設ける」ことを外すことを禁止し、あるいは排除する旨の記載ないし示唆は存しない。)。

したがって、本願発明は原出願に包含されており、本出願が原出願からの適法な分割出願であることは明らかである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

請求原因1(本願発明の要旨)、2(特許庁における手続の経緯)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  原告は、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成」であるとした審決の判断は根拠がなく誤りである旨主張する。

しかしながら、原明細書には、次のような記載が存する。

d 「この発明は弾球遊技機の電動式打球装置に関し、特に、パチンコ玉の打球間隔を規定以上に短くして、短時間に多数のパチンコ玉を遊技盤面に発射可能に改造、改変したり、パチンコ玉の打球間隔を規定以上に長くなるように改造、改変する不正の防止が図られた弾球遊技機の電動式打球装置に関する。」(2頁左下欄10行ないし16行)

e 「この発明は、弾球遊技機の電動式打球装置における打球間隔を、遊技場において簡単に改造、改変できないようにした、弾球遊技機の電動式打球装置を提供することである。」(3頁左下欄11行ないし14行)

f 「この出願の第1の発明は、打球機構によって打球されるパチンコ玉の打球間隔を制御するために、電気的駆動手段を制御する打球間隔制御手段を、改造、変更が困難なように、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けたものである。また、この出願の第2の発明は、上記打球間隔制御手段および電気的駆動手段を動作可能状態にする触手検出手段を、改造、改変が困難なように、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けたものである。」(3頁左下欄16行ないし右下欄5行)。

g 「電気的駆動手段を動作可能状態にする触手検出手段も、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設ければ、より不正防止効果の高い構成とすることができる。」(3頁右下欄20行ないし4頁左上欄3行)

h 「触手検出手段を電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けたことにより、触手検出手段に対しても不正な改造、変更等が容易に行なえず、不正防止効果の高い電動式打球装置とすることができる。」(9頁左下欄12行ないし16行)

以上の記載によれば、原明細書記載の発明は、弾球遊技機の電動式打球装置における打球間隔を、遊技場において簡単に改造、改変できないようにすることを技術的課題とし、この技術的課題を解決するために、打球間隔制御手段、あるいは、打球間隔制御手段と触手検出手段とを、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設ける構成を採用したものであることが明らかである。そして、原明細書には、打球間隔制御手段を電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けなくとも上記技術的課題を解決し得ることは示唆すらされておらず、原明細書記載の発明はそもそもそのような構成を予定していないというべきである。

このように、原明細書記載の発明は、「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあること」によって、初めて所期の技術的課題を解決し得るのであるから、これらが「一体不可分の構成」であるとした審決の判断に誤りはない。

2  本願発明は、打球間隔制御回路と触手検出回路を同一回路基板に設けることのみを構成要件としており、その回路基板を設ける場所を何ら限定していないから、回路基板をケーシング内部以外の場所に設けることが排除されていない。そうすると、本願発明の構成は、原明細書記載の発明が必須のものとする「打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた」構成要件を欠き、原明細書に記載されていない事項を含むことになるから、本願発明が原出願に包含される発明ということはできない。

したがって、本出願は適法な分割出願とは認められないとした審決の判断は正当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、いずれも当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いのない甲第4号証(特許願書添付の明細書及び図面)、第7号証(平成6年9月12日付け意見書添付の手続補正書)及び第10号証(平成7年8月3日付け審判請求理由補充書添付の手続補正書)によれば、本願明細書には本願発明の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が次のように記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)  技術的課題(目的)

本願発明は、パチンコ遊技機やコイン遊技機に代表される、遊技者の打球操作に従って打玉を遊技領域に打ち込んで遊技が行われる弾球遊技機に関するものである(明細書1頁18行ないし20行)。

この種の弾球遊技機として従来から知られているものに、電気的駆動源と、その電気的駆動源の駆動力により打玉を間欠的に打球発射可能な打球機構とが設けられ、打球機構によって発射された打玉が遊技領域に打ち込まれるように構成したものがある(明細書1頁23行ないし26行)。

そして、打球機構による打玉の打球発射間隔は、遊技者が健全に遊技を楽しめる範囲内になるように予め規定されており、したがって、単位時間当たりに打球発射できる打玉は一定個数範囲内に予め決められているので、打球機構による打玉の打球発射間隔を所望の間隔に維持できるように、打球間隔制御回路が設けられている(平成6年9月12日付け手続補正書2頁25行ないし29行)。

また、遊技者が触手部に触れることなく打玉を発射させて、1人の遊技者が複数台の弾球遊技機を独占してしまう不都合を防止するため、触手部に遊技者が触れていることを触手検出回路により検出し、その検出出力に基づいて電気的駆動手段を動作可能な状態にすることも行われている(同手続補正書3頁7行ないし11行)。

しかしながら、従来技術においては、打球間隔制御回路と触手検出回路の弾球遊技機への組付作業が煩雑となる欠点を有していた(同手続補正書3頁18行ないし20行)。

本願発明の目的は、打球間隔制御回路と触手検出回路の弾球遊技機への組付作業の煩雑化を防止することである(同手続補正書3頁27行ないし29行)。

(2)  構成

上記目的を達成するため、本願発明は、その要旨とする構成を採用したものである(平成6年9月12日付け手続補正書2頁7行ないし17行)。

(3)  作用効果

本願発明によれば、打球間隔制御回路と触手検出回路が同一の回路基板に設けられているために、弾球遊技機への組付作業が簡単になる。また、両回路が設けられている回路基板を一見しただけでは、打球間隔制御回路と触手検出回路の区別がつきにくく、打球間隔制御回路あるいは触手検出回路を見つけ出して不正な改造、改変を行うことが困難となる(平成7年8月3日付け手続補正書2頁8行ないし15行)。

2  前記のように、審決は、本出願の分割出願としての適法性を否定したが、その理由は、「原明細書記載の発明は、『打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けた』ことを必須構成要件とするものである」ところ、本願発明はこの構成要件を有していないという点にある。

原明細書記載の発明が「打球間隔制御回路及び触手検出回路を、電気的駆動手段の収納するケーシング内部に設けた」ことを必須構成要件とすることは、原告も認めるところであるが、そもそも特許法44条1項の規定による特許出願の分割は、2以上の発明を包含する特許出願(原出願)の一部を1または2以上の新たな特許出願とすることであるから、新たな特許出願に係る発明が、原明細書の特許請求の範囲に記載されている発明(原明細書記載の発明)の必須構成要件の全てを備えている必要がないことは当然であって、問題は、原出願が2以上の発明を包含しているか否かである。そして、ここにいう「2以上の発明」は、原明細書の特許請求の範囲に記載されているものに限られず、原明細書の発明の詳細な説明あるいは図面に記載されているものでもよいことは、判例において示されているとおりである。

したがって、本出願の分割出願としての適法性を否定した審決の趣旨は、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成」である以上、原明細書には、「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあること」を構成要件とせず、「打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあること」のみを構成要件とする発明は記載されていないという点にあるものと解することができる。

そこで検討するに、成立に争いのない甲第3号証によれば、原明細書記載の発明の特許請求の範囲は次のように記載されていることが認められる(別紙図面B参照)。

「(1)……打球間隔制御手段を、改造、変更等が困難なように、前記電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けたことを特徴とする、弾球遊技機の電動式打球装置。

(2)……打球間隔制御手段および前記触手検出手段の改造、改変等が困難なように、前記打球間隔制御手段および前記触手検出手段を、前記電気的駆動手段を収納するケーシング内部に設けたことを特徴とする、弾球遊技機の電動式打球装置。」

そして、上記甲第3号証によれば、原明細書記載の発明の特許請求の範囲には、「打球間隔制御回路および触手検出回路が同一の回路基板に設けられ」ることに関する記載は全く存在しないことが認められる。したがって、原明細書記載の発明において「打球間隔制御回路基板104がケーシング内にあることと、該打球間隔制御回路基板104には、触手検出回路が打球間隔制御回路106と共にあることとは、一体不可分の構成」であるという審決の判断は、根拠のないものといわざるを得ない。技術的に考えてみても、原明細書記載の発明の技術的課題(打球間隔制御手段の改造、変更等の防止、あるいは、打球間隔制御手段および触手検出手段の改造、改変等の防止)を解決するためには、打球間隔制御手段および触手検出手段を適宜の方法でケーシング内部に設ければ十分であることは明らかであって、両手段を同一の回路基板に設けなければならない理由、あるいは、両手段を同一の回路基板に設けなければこれらをケーシング内部に設けることができない理由は、全く考えられないところである。

一方、前掲甲第3号証によれば、原明細書には、原明細書記載の発明の実施例の説明として、「打球間隔制御回路基板104には、タッチ板(中略)に遊技者の手が触れているか否かによりモータ本体(中略)を動作可能状態にするか否かを判別するタッチ検出回路(中略)が、打球間隔制御回路(中略)と共に備えられていてもよい。」(5頁右下欄14行ないし19行)と記載されていることが認められる。そして、打球間隔制御回路と触手検出回路を同一の回路基板に設けておけば、両回路の遊技機本体への組付作業がより容易になることは自明であり、かつ、そのような作用効果は、回路基板を組み付ける箇所がケーシング内部であろうとケーシング外部であろうと同様に奏されることも自明である。

したがって、原明細書の発明の詳細な説明には、原明細書記載の発明とは別個の技術的思想の創作である「打球間隔制御回路基板に、タッチ検出回路が、打球間隔制御回路と共に備えられてい」る構成が包含されており、この構成は、産業上利用することができる発明といい得るから、本願発明は原明細書に記載されている発明ということができる。

3  以上のとおりであるから、本出願の分割出願としての適法性を否定した審決の判断は誤りであり、この誤りが原明細書を援用して本願発明の進歩性を否定した審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。したがって、審決は違法なものとして、取消しを免れない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面A 「70はケーシング本体、98は前面カバー、102は裏カバー、104は打球間隔制御回路基板」

〈省略〉

別紙図面B

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例